
彼の名前は片岡義男。
海の風が香るような清々しい物語もあれば
煙草が煙ってきそうなハードボイルドもある。
どちらにしても魅力的なのは彼の書く女性。
いつもヒールの高い靴をぴん、と背筋を伸ばして履きこなし、颯爽と歩いている。
男を惑わすような女もスタイルが良くてガーターベルトなども普通に着用している。
将来、こんなふうになれたらな、と小学生だった私は思った。
今、彼が書く女性より若干年上になってしまったが、
そう上手くは行かないようで、彼の書く女性像とはほど遠い。
彼の小説の中で、とびきりセクシーな女性が出てくるお気に入りの短編がある。
「バドワイザーの8オンス罐」タイトルがもう既に素敵。
この物語はもう成人した女友達ふたりが久し振りに再会し、
飲みに出て、その先で一人だけ男を呼び、三人でドライブに出て、
女性の片方が酔っ払ってしまい、そのまま送り、
残った女性と飲み直すが、彼女も酔い潰れ、家まで送り、男も泊まる。
次の日、ふたりは起き抜けに抱き合う。
そして昨夜、酔っ払ってしまった彼女を心配し、電話をする。
女性は二日酔いで寝ていて電話で起こされるが謝った後、また眠りにつく。
これだけの話なのだが、このふたりの女性、由紀子と美保子が素晴らしい。
物語の中心になって行動を起こすのは由紀子。
積極的に男を呼び出したり、うまく甘えて最後に男と寝るのも彼女だ。
美保子は若干、内気な印象。ダンスのインストラクターでスタイル抜群。
二人とも美人で正統派の美人の美保子に対し、由紀子はファニーフェイス。
呼び出された男、柴田は正直にふたりを賞賛し、すんなりと間に収まる。
しかし、私が魅かれたのは美保子。
「男にとっては夢のような体」と美保子に言う由紀子。
当の本人は恋愛に淡白でうっとうしいなんて言う。
そして美しいけれど若干、表情に翳りがあるという所も素敵。
彼女は自分の体をうまく調節していて、季節に敏感。
雨の降る気配を全身に感じ、店内の松の木の香りを察知し、
しなやかな小動物のように躍動感たっぷりの踊りを見せる。
そんな彼女がひとりで生きていて、
ラストはショーツ1枚で二日酔いの眠りに落ちる彼女の描写のみ。
それがとてもセクシー。
物語中、実際に恋愛を始めるのは由紀子だけれど、
読み手を恋に落とすのは美保子だ。
彼女の体に対する賞賛は、完璧に男側の視線だ。
小説の中の彼女は誰とも恋をしていない。
この少し乾いたセクシーな短編を私は事あるごとに読み返している。
後味はバドワイザーのように爽やかだ。
---------------------------------------