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夜食にグラタンを食べていると、
アレクサンドル・ジャルダンの小説「恋人たちのアパルトマン」(新潮社)思い出した。
主人公の青年がほとんど一目ぼれに近い形で恋に落ちた相手が、
ファンファンというじゃじゃ馬で美しい女の子。
その子が食べているのが真夜中のグラタン。


 「 台所の隣の客間に明かりが点っているのに気が付いた。
  僕は近付いた。ファンファンがいた。絨毯にゆったりと胡坐をかき、
  雑誌を覗き込みながら、フォークでグラタンの残りを機械的に刮(こそ)げ取っていた。」


主人公の青年は恋愛初期の新鮮さは肉体関係を持つと失われる、と思い込んでいる。
なので、恋した相手とはプラトニックを貫き、結婚は別の女性とし、
妻となった相手で性欲を埋め、恋の新鮮さを保てる(はずの)女性とは、
一生新鮮で情熱的なまま付き合っていけると本気で考えている。
既にかわいそうな役割になる結婚相手も決まっている。
なので読者含め、ファンファンや青年の婚約者にとって、
青年の一方的な迷惑な考え方を通して物語は進む。


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最後まで読み進めていくとこの我侭に対して痛快などんでん返しがある。
この青年は悪い人ではないのだけど、あまりにも利己的。
自分の思考のために人の心を犠牲にする。
重い罪をわかっていないため、信頼を置いていた人物にすべてを知られた時、
強烈に叱られる。そこで目が醒める。

ただそんなふうに片付けてしまうにはあまりにも青年は、
親の金や人の心をあっさり使い過ぎなので叱られて良かった。
叱るのは青年が祖父のように親しく思っているおじいさんで実際はファンファンの祖父。
その叱り方も、おじいさん自身の過去も叱るような温かさがあっていい。

青年の頭の中の御伽噺は理想かも知れない。
けれどそれを実践してしまうのであまりにも自分勝手過ぎる。
「合わせ鏡の部屋」なんて凝ったものまで作りファンファンを覗いていたりする。
おまけに隣の部屋もファンファンの部屋をそっくりそのまま反転させて造り変え、
鏡は青年の部屋からだけマジックミラーになっている。しかもそこに住んじゃう。

怖いけれど、そこは小説。
ちなみに映画化もされていて、主演を演じるのは、
ソフィ・マルソーとヴァンサン・ペレーズ。美男美女です。
著者はほぼ自分のことを書いたノン・フィクションのような作品だと言う。
その辺りは謎である。しかしどんでん返しが書けるというのは、
やはり客観視できる作家という目線があるからだろうか。
単行本の帯にうまくまとめてある。


「情熱を長びかせ、永遠のものにする秘訣を、彼女は僕よりも知っていた。」

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画像は映画版「Fanfan」より。
裸身も惜しまぬフランス娘、小悪魔全開のソフィーが超可愛いです。
記事内「」はアレクサンドル・ジャルダンの手によるものです。