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とても素敵な小説を読んだ。

雨の音や、匂い、ノスタルジーを思い起こさせる切なさに、
幼い頃食べたドロップの味を思い出して頬がすぼまるような。
小説のタイトルは「ブルー」
作者は田川ミメイさん。

冒頭、語り手である彼は沈んでいる。彼女に捨てられたからだ。
その事をとても哀しみ、その姿は雨に濡れて余計に悲哀を煽る。
そんな形相の彼を道行く人々は避けて通る。
よっぽど疲れた顔をしているのだろう。私は彼に同情した。
彼はもう一度だけ、と彼女の部屋に戻るがもぬけのからだった。
けれども、彼は哀しいだけで、彼女を恨んだりしていない。
ただ目の前にある哀しみだけを見ている。
そこに現れたのは彼女よりも年上の女性。

みんなに避けて通られるような彼の前にすっくと立ち、
その濡れた体をハンカチで拭う。天使だ、と思った。
けれど彼はその女性に素直になれず、背を向ける。
しかし、運命は動いていた。彼らは再び、巡り合う事になる──

この物語は、驚くべき結末が用意されている。
そして、読み終えた後、理解してからもう一度読み返して欲しい。
印象ががらりと変わるはず。そして、その彼の純粋性は見習わなければと思う。
何にでも替えが出来る今、何の見返りも期待しないのは困難だ。
しかし彼はただ、さよならだけを哀しんで乗り越える。
そして乗り越えた先に待っていた出会い。

哀しみを他のもので埋めようとしない彼の強さを愛しく思う。
一人になって成長した後の彼は、
もう以前のように彼女の面影を見る事もなく別の女性と歩いて行く。

そこがとても素敵だと感じた。
「別れ」から立ち直る時にただ黙って人に胸を借りない潔さは、
生きている者にとって必要不可欠に思う。
そう「生き者」にとっては、ね。
全編、煙るような雨の温度を感じるこの作品をぜひとも読んで欲しい。
ラストで淡く微笑まずにはいられない。透明で優しい物語だ。

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「ブルー」は「アメーバ・ブログ」のミメイさんのブログ、
とるにたりないこと@夢ウツツ」で読めます。

こちらのブログでは新たなミメイさんの小説が読めます。
今、ミメイさんの本「ミ・メディア」を発刊する時に募集していた、
皆さんの感想の載せ切れなかったものを
その物語と共に「てのひらの小説」として連載で紹介されています。
その中の「定かではない日」という物語で、私の書いた感想も載せていただきました。